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第74話 消えた十四分

Author: 花柳響
last update publish date: 2026-09-29 06:01:37

 静まり返ったリビングで、電子レンジのデジタル時計が刻む緑色の数字だけが、無機質に時間を進めていた。

 午後二時十分。

 真帆はダイニングテーブルにノートパソコンと共用タブレットを並べ、冷えたお茶のグラスを脇に置いた。先ほどまでバイパス沿いの喫茶店で向かい合っていた水城沙耶の、涙に濡れた顔と掠れた声が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。

『あの時も……悠人さんが、間に立って、周りに説明していたんです』

『私は車内で口論になって悠人さんが手を伸ばしてきたと言ったのに、周りからは沙耶が取り乱して暴れたと伝わっていて……』

 九年前の事故の裏側。そして、二年前からの偽アカウントによる双方へのなりすまし。

 これまでに分かった範囲だけでも、悠人は二人へ違う説明をしていた。沙耶には「家庭を捨てる冷酷な妻」としての真帆を、真帆には「娘を奪おうとする危険な前妻」としての沙耶を語り、その間で双方の事情を知る人物として振る舞っていた。

 真帆は画面上のスプレッドシートを開き
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     静まり返ったリビングで、電子レンジのデジタル時計が刻む緑色の数字だけが、無機質に時間を進めていた。 午後二時十分。 真帆はダイニングテーブルにノートパソコンと共用タブレットを並べ、冷えたお茶のグラスを脇に置いた。先ほどまでバイパス沿いの喫茶店で向かい合っていた水城沙耶の、涙に濡れた顔と掠れた声が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。『あの時も……悠人さんが、間に立って、周りに説明していたんです』『私は車内で口論になって悠人さんが手を伸ばしてきたと言ったのに、周りからは沙耶が取り乱して暴れたと伝わっていて……』 九年前の事故の裏側。そして、二年前からの偽アカウントによる双方へのなりすまし。 これまでに分かった範囲だけでも、悠人は二人へ違う説明をしていた。沙耶には「家庭を捨てる冷酷な妻」としての真帆を、真帆には「娘を奪おうとする危険な前妻」としての沙耶を語り、その間で双方の事情を知る人物として振る舞っていた。 真帆は画面上のスプレッドシートを開き、指先をキーボードに乗せた。 真帆が怖いと感じたのは、実際に起きた出来事と説明の間に、少しずつ違う情報が混ぜられていくことだった。何が事実で、何が誰かの説明なのか。それを自分で切り分けなければならない。 真帆は、出来事そのものと、あとから誰かが与えた説明を同じ欄に置かないようにした。日付、時刻、記録。まずは自分の目で確認できるものだけを、一つずつ拾っていく。 真帆が最初に指を止めたのは、以前確認したスマートロックの解錠履歴と、防犯カメラのデータだった。 五月十三日の水曜日。真帆は都内のオフィスで終日会議、七海は小学校、そして悠人は「横浜で終日研修」と言っていた日の午後。 スマートロックの記録には、午後二時四分に手動で鍵が開けられ、十四分後に施錠された履歴が残っていた。しかし、その十四分間の防犯カメラ映像だけが、クラウドから綺麗に削り取られていたのだ。 真帆はスマートフォンを取り出し、過去のメールフォルダを開いた。五月十三日に届いた通知を、日付で絞り込んでいく。 ほどなく、宅配業者から届いた受け取り完了通

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